毎回荒川区の町工場などモノづくりの現場を訪ねては、そのこだわりや裏側にあるストーリーなどを探ってご紹介していく、荒川探訪の「LOCAL STORY」のコーナー。
今回は60年以上にわたり照明器具を扱ってきた鈴木照明の別会社として、オリジナル商品の開発・製造を行っている株式会社アプロスを取材。
アプロスは商品開発から販売までを自社で行い、国内生産にこだわる姿勢を持っています。また、MADE IN TOKYOを打ち出し、荒川区だけでなく、東京という立地のメリットを活かしたモノづくりやブランド思想についてお話を伺いました。ぜひご覧ください。
都電が走る尾久の街中にそびえ立つ鈴木照明株式会社の建物。 このビルには、アプロスのオフィスも入居しています。
MADE IN TOKYOにこだわった製品作りで、照明の世界でいま注目を集める株式会社アプロス。母体である鈴木照明は60年以上にわたり照明の製造を続け、アプロスはその別会社として既製品、特注照明*の開発・製造に従事しています。
*特注照明:一般の市販製品と異なり、特定の要件やニーズに合わせて設計・製造される照明器具のこと。
アプロスの拠点は東京・荒川区の西尾久。
この地域は、東尾久と合わせて尾久と呼ばれ、北は隅田川を挟んで足立区、南および西は北区と隣接する場所。東京の下町らしさが色濃く残り、小さな商店街や住宅が入り混じった、昔ながらの趣も感じることができます。特に注目すべきは、東京都交通局荒川電車営業所内にある「都電おもいで広場」や、荒川区が運営するアミューズメント施設「あらかわ遊園」など、荒川区らしさを感じることができるスポットが近隣に存在している点です。
都内で唯一残された都電荒川線の(現在も愛称を「東京さくらトラム」として親しまれています)ゆったりとした走行音、チンチン、と発車の合図を送る可愛らしい鈴の音色が、古き良き時代の面影を感じさせる情緒豊かなこのエリアから生まれるMADE IN TOKYOの照明について、マネージャーの細沼さんにお話を伺いました。
鈴木照明の60年にわたる経験と特注照明のノウハウ
アプロスは、照明の分野で60年以上にわたり培った経験を持つ鈴木照明の別会社として誕生しました。鈴木照明は、特注照明器具を主力に据えた下請企業であり、そのノウハウが今のアプロスに受け継がれています。
約13年前、当時の市場状況や海外展開の進展により、オリジナル商品の企画・製造が難しくなるなかで、仕事の有無に左右されず、自社で対応できる環境を整えるため、別会社であるアプロスを立ち上げました。
株式会社アプロスのマネージャー、細沼さん。
僕たちは企画、デザイン、図面作成、製造、組み立て、検査、梱包、出荷まで全てを自社で行います。社内で部材管理を行うことで在庫ロスを最小限に抑え、効率的に製品を作ることができると考えています。母体の鈴木照明の築いてきたノウハウが、特に僕たちの照明に活かされていると思います。
アプロスの特徴は、企画から商品出荷まで全てを自社で行う一貫生産体制です。この方式により、部材管理の徹底による在庫ロスの最小限化と、効率的な製品作りが実現しました。他社の場合、例えば欠品が発生しても、コンテナを作るまでの受注がないと、製品の追加発注が難しくなり、それが運送機会の損失や未処理の注文残を引き起こすことがあるそうです。しかし、アプロスでは一貫生産体制で対応できるため、約1ヶ月という短納期でも対応が可能です。
ユーザーとしてもメリットしかないですね。
そうですね。ただ、その分、僕たちも日本で製造しているため、人件費や材料コストなど、直近でぶつかる問題もあります。海外では円安など様々な要因がありますが、それでも海外の方が生産コストが低いという利点はあります。これらの要因のバランスは企業努力で取っているというのが現状です。
国内生産の決断、
アプロスが目指す照明メーカーの独自性
アプロスの創業は、鈴木照明の代表と細沼さんの初対面から始まりました。
お互いの活動には知識がありつつも、深い交流はなかった状況からのスタートです。細沼さんは以前、海外生産メーカーでデザインや海外担当をしていましたが、独立も視野に入れた自身の転換期でもあったそうです。
鈴木照明株式会社の新社屋では、 板金加工などの生産や組み立て、検査など、 すべての業務がここで行われています。
新社屋のエントランスには、 鈴木照明とアプロスのロゴが並ぶ。
細沼さんは代表の鈴木氏から、アプロスを立ち上げる際に日本での製造を提案されましたが、ご自身の今までの経験から、日本での製造は価格的な懸念もあったそうです。しかし、鈴木氏は業界として海外での製造が進む中、市場がかなり空洞化しているという当時の状況にジレンマや危機感を覚え、アプロスの創業において日本での製造を選択したのではないかと細沼さんは語ります。
当時、鈴木も危機感や「やってみたい」という気持ちもあったと思うんですよね。だからその辺いろいろ考えてたんだと思います。僕も前の会社を辞めて、自分でやろうかな、みたいなときだったし。1回ちょっと会って話そうよみたいなところから始まりました。
事業の安定性と展望を考え、アプロスを通じて業界に新しい風をもたらしたいという強い思いと、また日本での製造に意欲的な鈴木氏の影響から、アプロスは照明メーカーとしての独自性を持つことに焦点を当て、その結果、独自の商品を生み出すこととなりました。
レーザー加工。パーツを抜かれた端材も美しい。
その後、アプロスは2011年に発生した東日本大震災の影響を受けつつも、独自の商品を企画・製造し、着実に事業を展開してきました。
本題とは逸れますが、照明という日常的に使う商品にも、情勢の影響というものはつきものなのだと知ることができました。例えば、地震後はガラスの照明器具などの割れやすい性質の商品は、災害による心理的な変化も影響して選ばれなくなる傾向にあるそうです。
MADE IN TOKYOのブランドを支えるため、 板金加工のエキスパートたちが 技術とノウハウを駆使しています。
リスクを冒してまで立ち上げたアプロスは、国内での製造が可能かどうかの不安や葛藤を抱えながらも、国内製造を実現しました。
他のメーカーの商品を売り込んだり、知り合いにソケットを作ってもらったりしながら同時にオリジナル商品の企画を進め、着実に事業を展開していきました。立ち上げから半年後の展示会に向けて商品を製造し、そのタイミングで商品をリリース。既存のお客さまに加え、新規の取引も開拓しながら、年々新しい商品を追加し、現在に至っています。
洗練された雰囲気が漂う、 出荷に向けて梱包されたアプロスの商品。 箱からも高品質が伝わります。
展示会を終えて、アプロスが選んだ専門性の強み
半年後の展示会を迎えても、気を緩めることはなかったそうです。
次の展開に向けてのステップを踏むことが最優先であり、余裕を持って成功を確信することはあまりできなかったそうです。事業を拡大すべく売り上げを伸ばし、商品を製造し、サイクルを繰り返す中で、徐々に成功の手応えを確実に感じるようになったと、少し笑いながら淡々とお話ししてくださる細沼さん。会社の未来を見据えて実直に、確実に歩み続ける姿勢をアプロスの商品にも意匠として感じることができます。
アプロスの照明は 異素材の巧みな組み合わせが最大の魅力です。
根津のショールーム、 アプロスの独自性溢れる照明が実物で堪能できます。
振り返ると、当時は状況を理解する余裕がなかったかもしれませんが、これが事業の成長において重要だったのかもしれません。鈴木とも話すんですけど、早いなっていう。もう10年っすねみたいな。当時、鈴木の子供は、多分小学生だったんですけど、今はもう社会人ですからね、うちの子供も、小学校一年生だったのが今はもう大学1年生なんで、そう考えると、うん。やっぱ結構早かった。なんか短かったなっていう。
細沼さんの言葉からも、創業から今日までの時間の速さに驚きと感慨が混じっています。
アプロスは、照明に特化することで、他社との差別化を図り、照明メーカーとしての認知を高めてきました。デザインにおいても、素材の活かし方や木などの異素材との組み合わせにこだわり、照明器具だけでなく家具やソファーといったアイテムとの統一感を追求した商品を展開しています。
都電の行き交う風景を眺めながら、 アプロスは静かに照明の世界に光を灯し続ける。
決めちゃった苦しみもあるんですけど、それをやってきたことの強みってのはあるのかなと思う。
照明だけれど、電気を消したときにも楽しめるデザイン。それがアプロスの照明。
単なる照明器具ではなく、インテリアの一部として選んでほしい、そんな想いが込められています。
後編では、アプロスの自社で行う一貫生産体制の様子や、自社のショールームについてご紹介します。公開は2024年3月22日(金)です。どうぞお楽しみに。
株式会社アプロス
昔ながらの小さな工場が残る職人の街、東京都荒川区。
わたしたちは、のんびり走る都電を見下ろす自社工場で照明をつくっています。
高度成長期以降モノづくりの主流が海外に移行していく中、わたしたちは昭和初期よりこれまで変わらずモノづくりを継続してきました。特注照明器具の世界で長年培った技術とノウハウを活かしてオリジナル商品を作りたいと立ち上げたアプロス。
『オリジナルデザイン』『精緻な加工・確かな安全性』日本製に誇りをもって、コスト重視の既製品・海外製品が主流になった業界に、これからも変わらず挑戦し続けます。
住所:〒116-0011 東京都荒川区西尾久7-59-1
MAIL. sales@aproz.co.jp
ホームページ: https://aproz.co.jp/
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