荒川区民に「荒川グルメといえば?」と尋ねると、多くの人が「もんじゃ焼き」と答えます。
荒川区はもんじゃ発祥の地ですよ、と区民は聞かされて育つのですが、都内に住む多くの人は「もんじゃ焼きと言えば月島(東京都中央区)」と思っていることでしょう。発祥であろうがなかろうが、荒川区のもんじゃは美味しい。下町の雰囲気も含めてもやはり一番美味しいのです。
食の楽しみ方はひとぞれぞれ。特別な何かは無いけれど、ちょっと個性的だったり、変わっていたり、ほっとひと息つける場所。そんなモノづくりの街・荒川を支える「荒川グルメ」を探訪してご紹介していくコーナー、それが「荒川グルメ探訪」です。
MOGU-RA(モグラ)
東京メトロ千代田線・京成電鉄京成本線・東京さくらトラム(都電荒川線)の3つの路線が行き交う荒川区町屋〜千代田線町屋駅出口1を出て、三井住友銀行の脇の路地を右手に200メートルほど進むと「MOGU-RA(モグラ)」がある。ブルーの軒先テントと入り口に置かれたアコースティックギターが目印だ。ダブルネックのエレキギターやプロレスのチャンピオンベルトが飾られている店内は、ライブハウスのような雰囲気を醸している。オーナーが現役のバンドマンであり、無類のプロレス好きであるとのことで合点がいった。ちなみに店名のMOGU-RA(モグラ)は、「もぐもぐするやつら」を縮めたもの。食いしん坊なお客さんたちに美味しく食べてもらいたいという想いを込めたネーミングにニヤりとさせられる。
若い頃から音楽活動に興じていたオーナーがライブの打ち上げなどの際、仲間にカレーを振る舞っていたことが人気となり、自らスパイスカレーのお店を始めるきっかけになったそうだ。2019年11月に開店した「MOGU-RA」は、町屋では数少ないスパイスカレーのお店である。
唐突だが、皆さんは「3C」をご存じだろうか?
最近SNSなどで話題になっている「付き合ってはいけない男性」の最新版だ。「カメラマン」「クリエイター」に続き、なんと「カレーをスパイスから作る男」が列挙されている。なぜ「3C男とは付き合ってはいけない」といわれるのか?
理由として、3Cに該当する男性は自身へのこだわりが強い傾向にある、ということが関係しているそうで「付き合ってはいけない」というよりは、「付き合うと面倒くさい」というニュアンスが感じとれる。さらに一昔前、真しやかに囁かれていたのが「3B男とは付き合ってはいけない」である。「美容師」「バーテンダー」そして「バンドマン」が並んでいた。
こちらの理由は、カッコいい→モテそう→苦労する、などのイメージからきているそうだが、もうここまでくるとこじつけもいいところである。
念の為、インタビューで料理への想いを伺ってみた。
「カレーへのこだわりと音作りのこだわりは、似ているものがある」とオーナーのエースさん。
う〜む、ロックである!!
時代を超えて堂々の2冠を達成しているMOGU-RAのカレーをあなたも食べてみたくなりませんか?
さて、前置きが長くなったが、こだわりの詰まったスパイスカレーを紹介していく。
レモンキーマ
バランス良く調合されたスパイスは、その特徴が上手く活かされている。クミンはやや抑えめ、コリアンダーは中程度に配合されており、香りがまろやかに仕上がっている。色付けのターメリックと辛味のカイエンペッパーは極力抑えめにして、主張しすぎないよう絶妙な塩梅で調合されており、さらりと食べ尽くしてしまう。
玉ねぎ、ニンニク、生姜で炒めた挽肉には、動物性以外の優しい旨みを感じた。出汁に何か秘密があるのだろうと思い、尋ねてみたがそこは企業秘密とのこと。たぶんこれは山の旨みではないだろうか?
ただ、ここまでであればよくある旨いキーマカレーだが、MOGU-RAの秀逸なところはレモン!レモンキーマである。
しっかりとした風味と酸味が、カレーを爽やかに引き立てており、見事なアクセントとなっていた。
仕上げにレモン果汁を加えていることを教えてもらった。
アカシアのウッドプレートに盛り付けられたカレーの付け合わせには、人参とらっきょうを細かく刻んだアチャールと千切り牛蒡(ごぼう)のサラダが添えられている。
なお、カレーを語る上で忘れてならないのはお米である。MOGU-RAでは、山形県産のブランド米「はえぬき」を使用、噛みごたえのあるしっかりとした米粒は、程良く口の中でほどけていく感覚があり、硬めに炊かれたお米がスパイスカレーによく合っていた。ピンクペッパーとカスリメティの彩りがカレー全体を鮮やかに演出している。
レモンキーマを食べ進めつつ、終盤にはプレートの中にあるもの全てを混ぜ合わせていただいた、至福の瞬間とはこのことだろう。
豚スパライス
「豚スパライス」は、一晩スパイスに漬けた豚肩ロース肉をカリッとなるまでソテーし、サラダと一緒にワンプレートで提供される「豚肉スパイス漬け焼きごはん」なのだ!
クミン、コリアンダー、ターメリック、カイエンペッパー、ブラックペッパー、シナモン、カルダモン、パプリカ、クローブ、ナツメグなど10種類のスパイスを纏わせた肩ロース肉を前日より寝かせ、味を調和させている。
仕上げに岩塩や粗塩を使い分け、スパイスの風味をより一層引き立てている。以前は、肩ロースのブロック肉を仕入れ、お店で1枚1枚スライスしていたそうだが、味の馴染みが良いとの理由から、現在はスライスされた状態のものを仕入れて味漬けている。茶褐色になるまで丁寧に焼き上げられた肩ロース肉は、スパイスの苦味が出てくる直前で火を落とすなど、スパイスと肉への愛情を感じずにはいられない。
10種のスパイスで組み立てられた「風味」「色付け」「辛味」の3要素と噛み締めるほどにその旨味を楽しむことの出来る豚肩ロース肉がセッションしているようだ。
付け合わせには刻んだレタスが添えられ、プレート全体の肉と野菜に人参、玉ねぎ、卵黄をブレンドした自家製ドレッシングがかけられていた。スパイス+ドレッシングの掛け合わせは新鮮で、これまでのスパイスカレーの味わいになかった酸味とまろやかさを感じることができて、前述のレモンキーマとはまた異なる味わいである。
こちらも同様にピンクペッパーとカスリメティがトッピングされている。ちなみにカスリメティは、別名フェヌグリークとも呼ばれ、カレーの主な香り成分として知られており、食欲不振や胃腸障害などにも用いられる。粒のまま油に入れたり、煮込み料理に使うなど、調理方法で味や香りが異なるってくるところが特徴で、MOGU-RAではトッピングとしても使用するそうだ。
スパイスポテサラ
MOGU-RAのポテトサラダには、スパイスがよく効いている。スパイスカレーの配合とは一転して、カイエンペッパーが多めに加えられている。ピリッと辛味の主張が強い「ポテサラ」である。酒のつまみにもよく合う一品だろう。
また、その仕込みはエースさんがその日の気持ちで配合を変更するそうだが、色味についても特にこだわりがあるようだ。決め手はターメリックの量になるのだが、この日のスパイスポテサラは、いつもより黄色味を立てているとのこと。
スパイスカレーの定義
そもそもスパイスカレーとはなんなのだろうか?
いまさらながらであるが、その定義を整理してみた。スパイスカレーは、インド半島における調理法をベースに、ルーを使用せずにスパイスを調合して、日本ならではのアレンジが加えられたカレーのこと。小麦粉を使った一般的なカレーではなく、スパイスと野菜などを組み合わせ、煮込んだり、炒めたりしたものをスパイスカレーと呼んでいる。
もう少し紐解くとスパイスカレーという料理名で呼ばれる場合、基本的にはインド料理やスリランカ料理など、インド半島周辺の料理とは異なり、その地域の料理の影響を受けつつも、日本で独自の解釈や工夫を加えて作った全く新しいカレーを指すのである。
カレーは料理名じゃない!?
それでは、インドカレーやスリランカカレーはどうなんだ!?という質問が聞こえてきそうだが、そもそも「カレー」という名前の料理がインド半島にはない。
本来、インドでスパイスを使った炒め料理は、サーグ、サンバール、コルマ、ダールなどと呼ばれており、それぞれに異なる料理名がついている。
では、なぜインド料理は、「カレー」として他の国の人に認識されるようになったのだろうか?
理由として、タミル語で食事そのものを表す「KARI」という言葉が元になったのではないかという説や旧宗主国のイギリス人が香辛料を多用するインドの煮込み料理を「カレー」と称して伝えたなど諸説あるが、インドでは「カレー」は料理名ではなく、食事そのものを指す言葉なのだそうだ。
MOGU-RA直伝、おうちでつくる本格キーマカレー
コロナ禍で、おうち時間の過ごし方が見直され、新しく料理を楽しみのひとつとして取り入れた人も少なくない。スパイスからつくる「おうちカレー」もそのひとつだろう。本取材では、スパイス初心者でも簡単に美味しくキーマカレーをつくれる方法をアドバイスしてもらった。
用意するスパイスは4種類、クミン、コリアンダー、ターメリック、カイエンペッパーがあればOK。スーパーで手に入るパウダーのもので大丈夫だそう。
4人分のカレーをつくる場合の配合は、
・クミン:大匙1
・コリアンダー:大匙1.5
・ターメリック:小匙2
・カイエンペッパー:小匙0.5〜1
が、おススメであり、基本の分量は茶色系のクミンやコリアンダーはやや抑えめ、黄色系のターメリック、赤色系のカイエンペッパーは抑えめにすると覚えておくと良いそうだ。
材料は、
・玉ねぎ:1個
・トマト:1個
・ニンニク:1かけ
・しょうが:1かけ
・合挽肉:300g
熱したフライパンにみじん切りにしたニンニクとしょうがを入れて、香りを油へ移す。
続いて、粗みじん切りにした玉ねぎを入れて、中火で表面が茶色になるまで炒める。
(ここでのポイントは、玉ねぎをあまり混ぜずに少し焦がすようなイメージだそう)
次に粗みじん切りにしたトマトを加えて、水分をゆっくり飛ばしたら、
塩小匙1とスパイス群を投入する。
弱火で3分ほどかけてスパイスの風味や色味、辛味を野菜へ馴染ませていく。
最後に合挽肉と一緒に水100mlを加え、水分がなくなるまで煮詰めていく。
仕上げに塩で味を調整したら完成!
一般的な食塩でも構わないが、もし家庭に岩塩や粗塩があれば、使用することでスパイスの香りを引き立てるとともに塩味の角が取れて、優しい味わいになるとのことだ。
是非、おうちカレーにトライしてみた感想をMOGU-RAに伝えにきてみてはいかがだろう?
きっとカレー談義と音楽の話に花が咲くのではなかろうか?本日もスパイシーなドラマをありがとうございました。
MOGU-RA(モグラ)
営業時間:
[月〜日]11:30~15:00、18:00~23:00
[定休日]年中無休
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店の前に店舗にご確認ください。
TEL:03-4283-7836
住所:東京都荒川区町屋1-20-11
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