荒川区民に「荒川グルメといえば?」と尋ねると、多くの人が「もんじゃ焼き」と答えます。
荒川区はもんじゃ発祥の地ですよ、と区民は聞かされて育つのですが、都内に住む多くの人は「もんじゃ焼きと言えば月島(東京都中央区)」と思っていることでしょう。発祥であろうがなかろうが、荒川区のもんじゃは美味しい。下町の雰囲気も含めてもやはり一番美味しいのです。食の楽しみ方はひとそれぞれ。特別な何かは無いけれど、ちょっと個性的だったり、変わっていたり、ほっとひと息つける場所。そんなモノづくりの街・荒川を支えるグルメを探訪してご紹介していくコーナー、それが「荒川グルメ探訪」です。
懐かしのあの味を探しに…
かつては駄菓子屋でお馴染みの人気商品だった「あんこ玉」。当たりを引くと大玉がもらえることから、子ども時代に夢中になったという方も多いのではないでしょうか。今回の荒川探訪ではそんな昔懐かしいあんこ玉を長年にわたって作り続ける「植田製菓工場」をご紹介!子どもから大人まで、多くの人々に愛され続けるあんこ玉作りの舞台裏をのぞいてきました。
東尾久にある昭和4年創業の「植田製菓工場」は、100年近くもの歴史を誇る老舗の製菓工場。日暮里・舎人ライナー赤土小学校前駅より徒歩6分ほどの場所にあり、閑静な住宅街を歩いていくと立派な瓦屋根のお宅に併設された工場にたどり着きます。
「火と割」が肝!のあんこ作り
きな粉の香ばしい香りに包まれた工場内。もともと菓子問屋で和菓子職人をしていた初代代表が羊羹の売れ残りを煮直して丸めたことが、あんこ玉のはじまりです。今も昔もあんこ玉の原料はあんこ、きな粉、砂糖、水あめ、食塩のみ。添加物を一切使用していないことが「植田のあんこ玉」のこだわりです。
主な材料となるのは、小豆を水に浸して蒸しあげた「生あん」。蒸した後は一晩寝かせることで、しっとりと口溶けのよいあんこが出来上がります。天板の上で手際よく練り上げられた後は、機械にいれて細い棒状に。さらに回転式の歯車に通してきな粉とまぶし、一口サイズの大きさへと加工します。無添加であるため、日持ちのするあんこ玉を作り出すのは容易なことではありませんが、先代の残した「火と割」(火力と材料の割合)で、傷みにくいあんこが出来上がるのだとか。季節や天気によって、煮加減の変わる繊細なあんこ作り。最終的な決め手となるのは、長年の経験で培った“職人の勘”だそうですよ!
あんこ玉の表面を覆うきな粉は、近所の豆屋で炒ってもらった大豆を自社の機械で挽いたもの。原料となるのはまん丸の形をした丸大豆です。炒るときに転がって均等に熱が入るのが最大の利点。市販のきな粉は、熱風で乾燥させた豆を使用しているものがほとんどであるため、独特の香ばしさを引き出すことが難しいのだとか。植田製菓工場では豆から炒って風味を最大限に引き出した、上質なきな粉のみを使用しています。
工場内の鍋や機械は、そのほとんどが50年以上もの間使用しているという年代物。昔の機械はシンプルでいて構造がしっかりしているため、きちんとメンテナンスをしていれば簡単に壊れることがないそうですよ!
かつては多くの駄菓子屋で購入することができた、あんこ玉。1個10円(昭和30年の頃は1個5円)で、当たりのついたあんこ玉をひくと大きいあんこ玉がもらえるという仕組みでした。現在は大箱にのみ当たり玉が含まれているので、自宅で懐かしの当たりくじが楽しめます。当たり玉として使用されているのは、きな粉に使われているものと同じ皮付の丸大豆。かつては凹凸のない金平糖のようなものを使用していましたが、製造業者の機械故障などが原因で変更を余儀なくされることに。結果、歯の弱い年配の方々にとっては硬いお砂糖の粒より大豆の方が適しているのではないかということで、今の形に落ち着いたそうです。
現在、植田製菓工場の代表を務めるのは三代目にあたる植田博実(うえだひろみ)さん。生まれも育ちも荒川区で、現在の工場が幼少期の遊び場でした。お祖父様やお父様がお仕事をする傍らであんこを粘土代わりに育ったため、現在でも「仕事をしている」という感覚はあまりないのだとか。先代から受け継いだ甘くておいしいあんこ玉をお茶の間に届けるため、昔からの変わらない味を守り続けています。
渋さが人気!昔ながらのパッケージ
あんこ玉のサイズ展開は、当たり玉を含む小さいあんこ玉が42個と大玉が6個入った大箱(1000円)に、中サイズのあんこ玉が18個入った小箱(450円)の2種類。箱詰めは全て手作業で行われており、最後にきな粉をたっぷりとふりかけて仕上げます。当たり玉を入れる位置は特に決まっていないのだそうで、筆者は食べ進めること13個目でようやく当たり玉をひくことができました。当たりをひいたら大玉を食べてよい、などご家族やお友だち同士でルールを決めて食べてみるのも楽しそうですね!
およそ100年前から一度も変わることのないあんこ玉のパッケージは、初代であるお祖父様がデザインしたもの。誰かが着用していたブレザ―に付いた、ワッペンの帆掛け船がモデルとなっているそうです。古き良きデザインの良さが見直されている今日この頃では、新鮮にさえ映る昔ながらのデザイン。非売品ではありますが、ステッカーをはじめとしたノベルティグッズも製造しているそうですよ!
新しい食べ方を開拓しよう!
現在あんこ玉を販売している代表的なお店のひとつが、日暮里駅前の「大屋商店」。かつての駄菓子問屋街の名残を留める数少ないお店です。他にも上野の二木の菓子など菓子問屋が主な販売店。工場直売として、もちろん植田製菓工場でも購入することができますよ!
かつては駄菓子として子どもたちに親しまれていたあんこ玉。今では、昔を懐かしむ大人たちの間で立派なお茶請けとして愛され続けています。お茶とのイメージが強いあんこ玉ですが、実はコーヒーとの相性も抜群!また、某テレビ番組の企画では、植田製菓のあんこ玉を食べたスペイン人が「赤ワインと合う!」とコメントしたそうです。固定概念に縛られることなく、新しい食べ合わせを楽しんでいただきたいと語る植田代表。身体に優しい食材のみを使用しているので、健康食品としても取り入れてもらいたいとのことでした。
昔懐かしいあんこ玉は、贈り物や手土産などにも最適!子どもの頃の話に花が咲くこと請け合いの「大人のための駄菓子」です。
植田製菓工場
営業時間:8:00~17:00
定休日:日祝
TEL:03-3892-8690
住所:東京都荒川区東尾久1-15-5
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