荒川区指定無形文化財に!
夫婦で営む雛人形工房
今回、荒川探訪がご紹介するのは、伝統ある雛人形の制作を行う「竹中雛人形製作所」。荒川区指定無形文化財保持者であるご夫婦が営む、歴史ある町工場です。工房が位置するのは、京成線町屋駅から徒歩2~3分の藍染川通り沿い。その名の通り、かつては染物を扱うお店などが軒を連ねていた場所でした。取材に訪れたのは雛祭りも近づく2月の半ば。ぽかぽかと太陽の照る穏やかな空の下、軒先では春の訪れを待つヒヨドリが飛び回っていました。
約100年もの歴史を誇る竹中雛人形製作所。昔ながらの木造建築で、引き戸を開け建物内にお邪魔すると対になった無数の人形たちが出迎えてくれました。居間に飾られた百合の香りがふんわりと香る、どこか懐かしい工房内。初代・竹中つるさんが明治25年頃より古典人形制作をはじめたことがことのはじまりで、戦火から逃れる形でこの場所に居を構えました。
三代目である竹中重男(たけなか しげお)さん/号・幸甫(こうほ)さんは、祖母つるさんの技術を継いだ父親の仕事を手伝うことで人形作りを習得。70年もの間衣裳着人形の仕事に専従し、御年90歳を迎えます。荒川区指定無形文化財、都の無形文化財に認定された後は東京都伝統工芸士、経済産業大臣認定伝統工芸士にも認定。作業場の壁には数々の表彰状が掛かります。
このたび取材にご対応いただいたのは、重男さんの奥様にあたる竹中温恵(よしえ)さん/号・鶴屋半兵衛さん。結婚後、夫である重男さんの衣裳着人形制作を手伝うようになり、それから50年もの間人形作りを続けています。温恵さんの人形作家としての号は、竹中家の先祖であり豊臣秀吉の重臣(軍師)であった竹中半兵衛氏と初代つるさんのお名前に由来したもの。夫である重男さんに続いて荒川区指定無形文化財に認定されました。荒川区は伝統工芸の保持に力を入れているので、モノづくりがしやすい環境。技術展などの催しを通じて色々な人と顔を合わせる機会にも恵まれていると教えてくださいました。現在は実の娘さんである有紀江さんも作業場に。親子二代で工房を営みます。
衣裳着人形ができるまで
かつては多岐にわたる種類の人形作りを行っていた竹中雛人形製作所ですが、現在では“衣裳着人形”作りがメイン。江戸時代から続く技法に、現代的な感覚を取り入れた美しさが特長です。藁を束ねた胴体に足をつけ、その上に衣裳を着せた人形のこと。出来上がるまでにはおよそ100にも至る作業工程を要します。
材料は稲わらに腕巻(木毛を和紙で巻いたもの)、針金、和紙、生地、木毛(もくげ)、綿など。かつては膠(にかわ)を用いていましたが、時代に合わせてグルーガンを取り入れるようになりました。目打ちや金づち、衣紋棒(えもんぼう)など、一体の人形を作り上げるのに必要な工具は実にさまざま。今日はパーツを組み合わせる胴組み、明日は衣裳を着せる作業といった具合に段階を踏んで作業が進められていきます。伝統的な桐塑頭(とうそがしら)とは、桐の木粉を固めて作ったもの。現在でも既存のものを使用していますが、近年では頭部分を制作する作り手(頭師)がいなくなってきているのだそう。材料なども現代風にアレンジすることで、新旧の技術を紡ぎます。
衣裳に使用する布はすべて京都の高級絹織物、西陣織。生地を裁断したら和紙を貼り付け、膨らみをもたせます。十二単(ひとえ)の重なりを再現するために、布を少しずつずらして縫いあげるのがポイント。わずかにのぞく部分にも細心の注意を払っているため、細部に美しさが宿ります。
愛用のミシンは温恵さんが嫁いできたときにはすでに作業場にあったというもの。今では入手することのできない年代物ですが、長年使っているものとだけあってよく手に馴染みます。時代によって、使用する生地の柄なども徐々に変化。糸も生地に応じて付け替えています。時には指定の布で作ってほしいと問い合わせがくることも。成人式の着物で作ってほしいといった依頼もあるそうです。
襟、袴、上着と人形に衣裳を着せていく“着付け”の作業。生地のもっとも美しい柄を引き出すように、綿をいれて形を作ります。綿と併用しているのは、透明なセロハンを細かくカットして作られたセロパッキン。フルーツや陶器の緩衝材にも使われている材料です。綿より軽くしっかりとした質感を表現できるので殿の男らしい体形を作り出すのに最適。肩やひじに目打ちをし、折り曲げる“振付け”は力と技術のいる作業です。人形が生き生きしているように見せるのが人形作りの醍醐味。根気のいる作業に手先が痛むこともあるそうですが、楽しんでやれているから大丈夫なのだと話してくださいました。
大人から子供まで!
余り布を利用したカード作り
荒川探訪スタッフがこのたび作成したのは、一番下の朱色のもの。 みなさん布を選ぶ時間が一番盛り上がるそうですよ。
竹中雛人形製作所では、人形の衣裳を作る際に余った布で作るカードケース作りも人気。余ったハギレを無駄にしないようにと温恵さんがはじめたサービスです。制作にかかる時間は30分ほど。600円と手頃な価格で、工房での手作業が体験できます。
材料に使用するのはハギレとボール紙、ボンドのみ。ペアになったハギレの中から好みのものを選んだら、予め用意されていた型紙にボンドで生地を張り付けます。斜めになった部分からのぞく異なる柄がお洒落なデザイン。上質な布に触れながら、自分だけのカードケース作りが楽しめます。実際の作業にかかる時間は10分ほど。その後10分乾燥させて出来上がります。選んだ布の厚さによっては、膨らんでしまうなど扱いにくい物も。柄の見せ方によって異なる表情が引き出せるのも布の持つ魅力です。
毎年10月頃からが、雛人形作りの繁忙期。比較的時間の余裕がある夏場に着物などのパーツを仕上げます。カードケースの他にも、ポシェットやペンケースなどの小物も制作しているのだそう。ご興味のある方は体験の際にぜひ尋ねてみてくださいね!
工場は、誰でも見学可(要事前予約)。ときには地元の中学生も職業見学に訪れています。販売は、昔からのお付き合いがあるという人形の甲世。もちろん、製作所での小売りも行っているので気になる方は実物を見に工房を訪れてみてくださいね!南千住にある荒川ふるさと文化館の、あらかわ伝統工芸ギャラリーでは「あらかわの伝統工芸」を開催中。3月12日まで竹中雛人形製作所の商品も展示されています。
春の訪れを祝い、
無病息災を願う
子供を病気や怪我から守り、将来幸せな家庭を築けるようにと願いを込めて飾る雛人形。春の訪れをよろこぶ風物詩であり、人々の暮らしに華やぎを与えてきました。現在では男の子のお宅でも雛祭りを祝う風潮があるのだそう。お子さんだけでなく、ママのためにと飾り続けるお宅もあるようです。伝統行事に親しみながら、健康に歳を重ねたことに感謝して。素晴らしい伝統文化を家族の思い出の1ページとして次世代にも受け継いでいきたいものです。
本記事の公開される2月18日は二十四節気のひとつ「雨水」の日。この日に雛人形を飾り始めると良縁に恵まれるといわれています。
大切なお子さんの記憶や記録に残るものを。
今年はそんな想いを込めて、雛人形を飾ってみませんか?
有限会社 竹中雛人形製作所
住所:東京都荒川区町屋1-21-7
電話番号:03-3892-9969
営業時間:10:00~17:00
定休日:土日(1~4月は無休)
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