私たちの生活に無くてはならない水。「おかもとポンプ株式会社」は、積み重ねてきた確かな技術と実績で“水”をくみ上げる「水中ポンプ」のスペシャリストです。大正7年に創業されてから時代が移り変わっていく中、地域と共に、着実に歩み続けてきた下町の町工場。
「水中ポンプ」って何だろう、町工場の中ってどうなってるの? 今回は、普段見ることのできない工場の内部に、荒川探訪スタッフが工場見学に伺ってきました!
「水中ポンプ」ってどんなもの?
水中ポンプとは、ポンプ本体を水中に沈めて、水を汲み上げたり、排水するための装置。手で押してくみ上げる「手押しポンプ」、電気のちから(モーター)を使用した「モーターポンプ」があります。「手押しポンプ」は、みなさんは公園などでご覧になっていることが多いかもしれません。井戸水をくみ上げたり、近年では災害時に川から水をくみ上げたりするときに使用します。一方「モーターポンプ」は、普段見ることは叶わない井戸の中に沈め、地中深くから水や温泉をくみ上げるために設置されます。
「おかもとポンプ株式会社」は、この水中ポンプを製造している会社です。特に同社製造の温泉をくみ上げるモーターポンプは、全国数千カ所の施設で活躍しているそうです。
手押しポンプは一度は誰しもが目にしたことがあるはず
南千住の地域と共にある町工場「おかもとポンプ株式会社」
「おかもとポンプ株式会社」は、南千住駅から徒歩6分。南千住の住宅街の中、隣はマンション、向かいは中学校という立地にあります。この南千住の土地で約一世紀、5代目として技術を継承する岡本社長が、現代の町工場としての思いを教えてくださいました。
「この辺りの工場はみんな事業を辞めてしまったり移転してしまい、現在では周りはすっかり住宅地に。そんな中でも、工場というのは、確かな技術で生活を支えていても、音や匂いがどうしても発生してしまいます。だからこそ私たちモノづくり企業は、地域への関わりや貢献を意識して継続していく「住工共生(じゅうこうきょうせい)」の取り組みが必要だと考えています。」
「住工共生」とは文字通り、住民とモノづくり企業が共にあること。共にあるために、おかもとポンプでは、地域へ技術を還元する取り組みを多数実践されています。敷地内の掘削した深井戸に水中ポンプと手押しポンプを設置し、有事には周辺地域の皆さんに生活用水を提供。地域の教育へ寄与するため、小学生を対象とした工場見学会を開催。また、地域の福祉へも貢献しています。今年の天王祭で御神輿の休憩場所として駐車場を開放された際は、地域の皆さんが400人近く集まってびっくりされたと教えてくださいました。
インタビューにご対応いただいた岡本直司社長。
本社前に設置された深井戸。 ソーラーポンプシステムで有事には生活用水を 供給します。
この井戸は荒川区災害時協力井戸に指定されています。
技術を積み重ねることはもちろん、その技術を地域に還元していく姿勢には、正しくこの地で約一世紀を迎える、下町の町工場の矜持を感じます。
工場の中を見せてもらいました!
おかもとポンプの技術が詰まった「水中モーターポンプ」。南千住の工場の中で製造過程を見学させていただきました!
普段見ることのできない、工場の中や機械、部品の数々。
水中モーターポンプは、ほとんどがオーダーメイド。井戸の水質、泉質(温泉の成分)、水位の深さや井戸の大きさに合わせてポンプの大きさや材質、ケーブルの長さ、その他の付属品が決められていき、その井戸のためだけにオーダーメイドされます。ポンプの部品は設計図面を元に海外の協力会社で製造。工場に部品が納品されたら、加工を担当する機械課の技術者の皆さんの出番です。届いた部品を、設計図に合わせて旋盤(せんばん)で微調整。旋盤とは、金属などの加工材料を回転させて刃物(バイト)で削り出し、円筒状に加工する工作機械です。設計図面の指定寸法は、1/100mm。繊細な加工が求められる重要なパートです。
元の部材を一から削り出し加工することもあるそうです。
部品が全て揃ったら組み立てる工程へ。ポンプやモーター、パイプ等の部品を組み立てていきます。若手技術者のお二人が組み立てる様子を見せてくださいました。
製造部組立課の、安室さんと掃部関さん。
こちらはステンレスプレスタイプの水中モーターポンプ。 井戸の大きさによって太さ長さが異なるそうです。
組み立てが完了した製品は、性能や不具合がないか工場内で試験を行います。クレーンを使って水槽に水中モーターポンプを沈め、コンピューター室のシステムを使用して試験を実施。長いもので全長5m以上あり、必要な部材も増えるため試験も念入りに時間がかかるそうです。
試験を操作するコンピューター室。
クレーンで吊られているのが 試験を終えた水中モーターポンプ。
ここまでの工程を経て試験に合格した製品は、ポンプの長さに合わせて専用の木箱に梱包され発送。全国の温泉施設や井戸に設置されます。
木箱製作を担当する、ロランさん。
水中モーターポンプを納めるための細長い木箱。 これらの木箱も一つ一つオーダーメイドで作られています。
一度納品し設置された水中モーターポンプも、定期的にメンテナンスが必要です。取材時に、工場に返ってきていた製品のメンテナンスを担当されていたのは製造部の小林さん。製品のメンテナンスは製造するときよりも、熟練の経験を積んだ技術者の知見が必要でいらっしゃるそうです。
製造部課長 小林さんと、製造統括 榎本さん。
製造過程では、もちろんケーブルや木材の廃棄も発生しますが、使われなくなったステンレスやケーブルはリサイクル業者へ、使われなくなった紙は、シュレッダーにかけてビニールにいれて梱包材となります。木材は地域のお風呂屋さんで燃料にしていただいているそうです。モノづくり企業として環境への配慮も怠りません。
培った技術はアフリカ諸国にも
おかもとポンプの事業は、国内に留まらず海外でも活躍しています。
「アフリカ地域の村落部では、井戸はあってもポンプが壊れて使えなくなり、遠くの水源まで水を取りに行っている地域が沢山あります。それを目の当たりにした時に、自分達の技術なら、壊れた井戸も簡単に直すことが出来る、役に立てると思いました。」とおっしゃる岡本社長。
現地では、安全な水が確保出来ないために水源が遠く女性や子供たちの大きな負担となり学校に行けないなどの弊害が起きています。そのため、おかもとポンプではODA(政府開発援助)にかかわる活動、特にアフリカ諸国に対するタンデム式ソーラーポンプシステムを導入し子供たちを「水汲み労働」から解放する活動を事業の1つとして継続しています。
タンデム式ソーラーポンプとは、ソーラー発電を動力とするモーターポンプと手押しポンプの二つの機能を1つの井戸に設置することのできる製品。更に通常は設置できない小さい径の井戸に設置できるため、アフリカ諸国の従来の小さい径の井戸を生かして設置することが出来るそうです。この技術はおかもとポンプの高い技術力が生かされています。現在も定期的に社員の方がアフリカ諸国へ向かい、現地でおかもとポンプの製品が活躍されているそうです。
雰囲気の良い明るい空気感の社員のみなさん!
取材中小学生が技術者の皆さんに声をかけ、工場の前を手を振りながら通っていきました。子供たちは工場見学会に参加しているので、従業員のみなさんと顔なじみなんだそうです。技術者の皆さんが手を振り返し笑顔で交流される様子は正しく「住工共生」を感じる瞬間でした。東京の下町、荒川区では技術を積み重ね、地域と共にある企業が私たちの生活を支え、活躍されています。
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