荒川区民に「荒川グルメといえば?」と尋ねると、多くの人が「もんじゃ焼き」と答えます。
荒川区はもんじゃ発祥の地ですよ、と区民は聞かされて育つのですが、都内に住む多くの人は「もんじゃ焼きと言えば月島(東京都中央区)」と思っていることでしょう。発祥であろうがなかろうが、荒川区のもんじゃは美味しい。下町の雰囲気も含めてもやはり一番美味しいのです。食の楽しみ方はひとそれぞれ。特別な何かは無いけれど、ちょっと個性的だったり、変わっていたり、ほっとひと息つける場所。そんなモノづくりの街・荒川を支えるグルメを探訪してご紹介していくコーナー、それが「荒川グルメ探訪」です。
創業45年!
老舗が挑む次のステージ

これまでも冒頭でお伝えしているように、荒川区はもんじゃ焼きが盛んなエリア。今回は、区内に数あるお店の中からひと味違うおもてなしが楽しめるとっておきの一軒をご紹介します。JR三河島駅から徒歩5分の路地裏に看板を掲げる「喜世」は、創業から45年もの歴史を誇るもんじゃ焼き屋。令和7年の4月には先代が築き上げた歴史に現店主が愛する日本酒とあんこのエッセンスを加える形で、新たなスタートを切りました。
喜世が荒川の地にお店を構えたのは、今から45年前の1980年のこと。西日暮里で25年間お店を営んだ後、淡路大震災に伴う補強工事の影響を受け三河島に居を移しました。先代である叔母の時代にはお店でアルバイトをしていたという現店主。地元で愛され続けてきた老舗がなくなってしまうことを惜しむ気持ちから、お店を受け継ぐことを決意しました。「喜世」という店名は、先代である叔母の愛称から。今でも当時のお客さんが、先代に連れられる形でお店を訪れています。
靴を脱いでお店に上がると、奥には掘りごたつ式の4人掛けテーブルが計6卓。お子さん連れのご家族も多く訪れています。油を扱うお店であるにもかかわらず、綺麗に保たれた居心地の良い空間。ゆくゆくはカウンター席を導入し、テーブル席に変えることなども構想中であるそうです。
喜世天 850円(税込)
ここでは喜世が誇るバラエティ豊かなメニューから、おすすめの品を厳選してご紹介。先代の頃から変わらない、昔ながらのオーソドックスな味わいが魅力です。
看板メニューである「喜世天」は、生エビ、生イカ、牛そぼろ、玉子、しいたけ、ピーマンを混ぜ込んだ贅沢メニュー。今回は店主にお願いをして、素材の食感が際立つ絶妙な焼き加減で提供していただきました。
ボリューミーなお好み焼きが主流になりつつある今、昔ながらの平べったいお好み焼きはかえって新鮮にうつる人も多いのでは。トッピングに山芋を追加すれば、お好みに応じてふっくらとした仕上がりに焼き上げることもできますよ!
明太もちもんじゃ 850円(税込) ※追加トッピング チーズ+150円 ベビースター+100円
もんじゃ焼きのメニューからは、圧倒的人気を誇る「明太もちもんじゃ」をご紹介。明太子の塩味とぷちぷち食感がお餅に絡む、満足度抜群のメニューです。今回は、チーズとベビースターを追加でトッピング。お馴染みのパッケージのままで提供されるのも、ちょっぴり楽しいポイントです。


屋台ではもちろん冷凍品が市販されているお好み焼きに対し、お店でないとなかなか食べることのできないもんじゃ焼き。美味しいもんじゃ焼きを作るには、蓄熱性・保温性に富んだ鉄板が要であるそうです。現在喜世で使用しているのは、開店以来使い続けている45年モノ。使い勝手のよい真っ黒な鉄板になるまで、時間をかけてじっくりと育てた喜世の大切な財産です。
日本酒とのペアリング!
地の物は地の物と
ここからは現店主が愛する日本酒と、新たに喜世の顔となったあんこのメニューをご紹介。もともとは大関など定番の銘柄のみを取り扱っていたそうですが、現店主の趣味が高じて日本酒のラインナップが充実したお店になりました。「今月の地酒」は、大(1合)900円、小(100ml)600円と値段が一律であることも嬉しいポイント。おすすめを聞いたら高いお酒を勧められてしまった…といった、よくある心配もありません。
今回はじめに勧めてくれたのは、秋田県の齋彌酒造店が製造する「美酒の設計」。独自開発の酵母と酒の自然な発酵力を活かして醸された、限定流通の純米吟醸酒です。一口含めば、ふんわりと幸せな気分に。料理の味を邪魔することのない味わいで、もちろんもんじゃ焼きとの相性も抜群です。
秋田、新潟、長野…と月ごとに産地を変えていることもユニークな発想。仕入れは荒川区内の酒屋さんにお願いすることもあるそうです。美味しいと思ったものを全国各地から。優れたお酒を見つけるために、アンテナショップなどに足を運ぶこともあるそうですよ。
選べる小鉢 400円(税込) 三種盛 1,000円(税込)
取材に訪れた月は、秋田県がテーマ。お酒に合わせておつまみも、秋田の郷土料理が揃います。
この日は「選べる小鉢三種盛」から、畑のキャビア“とんぶり”を盛り付けた「とんぶり長芋」に「いぶりがっこチーズ」、「一口かんざしうどん(稲庭)」をチョイス。“かんざし”とはうどんを作る際に棒に掛けた曲がりの部分で、通常のうどんよりも固い独特の食感が特徴です。いまや定番ともいえるいぶりがっことチーズの組み合わせですが、喜世ではチーズにひと手間をプラス!酒粕と和えていることから、よりまろやかな口当たりが楽しめます。
「同じ土地で育った食材同士は相性がいい」と言われるように。月ごとに変わる日本酒とおつまみのペアリングをお楽しみに…!(在庫がなくなり次第、終了となります。)
秋田の山本酒造店が醸造する「ど辛」も店主おすすめの銘柄。 後に紹介する自家製のあんこがついつい進む味わいです。
荒川区内に数多く存在するもんじゃ焼き屋ではありますが、なんといっても他にはない日本酒のラインナップが喜世の強み。たとえ鉄板焼の気分でないときでもお気軽に。お酒を楽しみにぜひ立ち寄ってもらいたいとのことでした。
日本酒とあんこのマリアージュ
生まれ変わった喜世の自慢は、お好み焼き・もんじゃ焼き屋の世界観に留まらない充実のあんこメニュー。自家製のあんこを手作りするのは新たに従業員として迎え入れた晴代(はるよ)さんです。店主とは趣味を共有する20年来のご友人。日本酒とあんこのお店を営業していた経験を活かし、喜世に新たな風を吹き込みました。
「あんこつまみに日本酒一献!」得意のあんこを活かしたアイデアメニューを、次々と生み出しています。
あんみつ 550円(税込)
自家製の「あんみつ」は、良質な気候の中で作り出された長野県諏訪産の寒天に、時間をかけて煮込んだ特製のこし餡を添えたもの。波照間島の黒糖から手作りした黒蜜をたっぷりとかけていただきます。なめらかなこし餡は辛口のお酒にもぴったり!ありそうでなかった組み合わせに、至福のひとときが味わえます。
あずキーマカレー 650円(税込) ※別添えのチリパウダーをお好みで。
あんこ好きが高じて誕生した「あずキーマカレー」は、こし餡を作る過程で誕生したというオリジナルメニュー。大豆でいう“おから”の部分をじっくり炒めた玉ねぎ、鶏ひき肉と煮込みました。
「つぶ餡であれば食べられる皮の部分。捨ててしまうなんてかわいそう…」という発想は、並々ならぬあんこ愛があってこそ。こし餡を作った時にしか登場しないレアメニューですので、巡りあえた際には食べ逃しなく!付け合わせのガーリックトーストは、同エリアにあるベーカリーナカジマから仕入れたもの。鉄板であたためてから、たっぷりとカレーをディップしていただきましょう。
地元のつながりを大切に。
先代の頃はおしんこなどのシンプルなメニューがメインであったそうですが、現在喜世のメニューボードにはバラエティ豊かな品々がズラリ。以前荒川探訪でもご紹介した「もりたや酒店」で取り扱う「秘伝豆銘」も人気メニューのひとつです。
もりたや酒店とは日本酒の仕入れなどで日頃やりとりをされているのだそう。喜世の店先にはもりたや酒店に集う常連さんから贈られたという、立派な花が飾られていました。
豚キムチ 850円(税込)
ビールのお供には豚キム一択!喜世の「豚キムチ」は、豚肉、たまねぎ、もやし、豆苗を、キムチと一緒に炒めていただきます。ごま油と醤油をちょっぴり加え、お好みの味に整えて。以前荒川探訪で紹介した「丸萬商店」のキムチを使用していることも、喜世のこだわりポイントです。
夏季には地元産のお豆腐など荒川ならではのメニューも登場。たとえ少しくらい値段が高くてもできるだけ地元のものを使いたい、とすぐ近くの荒川仲町通り商店街にも買い出しに出かけます。地元とのつながりを大切に。ご近所のみなさんにもたくさん足を運んでもらいたい!とのことでした。
区民のソウルフード!
荒川のもんじゃ焼きとは
江戸時代末期から明治にかけて誕生したもんじゃ焼き。生地を鉄板に流し子どもたちが文字を書いて覚えていたことから、文字(もんじ)焼きと呼ばれたのがルーツだと言われています。(諸説アリ)昭和の頃に一般に広まり、駄菓子屋の奥で売られるように。荒川区でも古くから区民のソウルフードとして親しまれてきました。
荒川探訪でも、過去には町屋にある「浜作もんじゃ会館」をご紹介。ぜひこちらも併せてご覧くださいね!
同じ荒川区内では、土手を作らずに生地を鉄板に流し込むというスタイルのお店もありますが、喜世では丸い土手を作る方が圧倒的に多いのだそう。近年では、海外からのお客さんも多いようで、お好み焼きやもんじゃ焼きを焼くパフォーマンスは一種のエンターテインメントにもなっています。基本的にはセルフサービスなのでお好きな召し上がり方で。焼き方に自信のない方はお気軽に店主にコツを訪ねてみてくださいね!
「お好み焼きともんじゃ焼きって日本酒に合うんですよ」
日本酒を愛してやまない店主の大久保さんと20年来のご友人である晴代さん。おふたりとも大の日本酒好きとだけあって、美味しいお酒をすすめるのが本当にお上手です。店主大久保さんは、なんと荒川区民会館「サンパール荒川」の名づけ親!40年ほど前、区民公募の際に提出したお名前が採用されたという荒川愛溢れるエピソードも聞かせていただきました。
観光地化のめざましい月島では回転重視のお店も多いようですが、喜世ではゆっくりとくつろいでいってもらうことを目指しているという店主の大久保さん。メニューもリーズナブルな価格に抑えているので、ぜひ気軽に足を運んでもらいたいとのことでした。
小鉢と一緒にお酒を楽しんだ後は、お仲間とおしゃべりをしながらもんじゃ焼きを。最後にはお好み焼きでお腹いっぱいに!と、いうのが店主が推奨する“鉄板”コース。
荒川が誇るもんじゃ焼きと、日本酒とあんこの新しい組み合わせをぜひともお楽しみくださいね!
お好み焼き・もんじゃ 喜世
住所:東京都荒川区荒川3-68-7
電話番号:03-3806-3886
営業日:水~日
定休日:月火
営業時間:17:00~22:00
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/kiyo.okonomi.monjya/
モノづくりの街・荒川の地域情報サイト「荒川探訪」では、荒川区の気になる情報をご紹介しています。
もし、荒川区の耳寄り情報や皆さんのオススメのお店などご推薦がありましたら、ぜひお気軽に荒川探訪編集部まで情報をお寄せください。もちろん、自分のお店を取材して欲しい、話を聞いて欲しいというご依頼も大歓迎です!
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これまでに取材したお店などのスポットは荒川探訪マップにまとめています。付近の散策や荒川探訪ルートを考えたりするのにぜひご活用ください。
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喜世天 850円(税込)
明太もちもんじゃ 850円(税込)
※追加トッピング
チーズ+150円 ベビースター+100円
選べる小鉢 400円(税込)
三種盛 1,000円(税込)
秋田の山本酒造店が醸造する「ど辛」も店主おすすめの銘柄。
後に紹介する自家製のあんこがついつい進む味わいです。
あんみつ 550円(税込)
あずキーマカレー 650円(税込)
※別添えのチリパウダーをお好みで。
豚キムチ 850円(税込)